ウィメンズヘルスリテラシー”自分を傷つける” 松本俊彦先生の話
先日、松本俊彦先生の講演を聞きにいってきました。
「自分を傷つける」というテーマで、産婦人科医の宋美玄先生がやっているウィメンズヘルスリテラシー協会の「これだけは知っておきたい講座」の第6回目でした。
宋美玄先生は、アルテイシアさんの同級生で、先日のイベントでお会いして更年期のこととかをいろいろお話してくださいました^^
松本先生の著書は、たくさん読んでいるのですが、実際に先生の講演を聞きにいくのは初めてだったので、大変楽しみにしていきました。
わたし自身も10代のころ、リストカットの経験があり、その構造をしっかり理解したいということもありまして、勉強しています。
松本先生のお話を簡単にまとめてみたいと思います。
●自傷と自殺の違いについて(学術的な定義)
・自殺と自傷の共通点
故意による行動 ・・・傷の深さはあまり関係ない
・自傷とは、
自殺以外の意図がある・・・目的が自殺ではないということ
非致死性の予測・・・自殺の場合はこのくらいで死ねると予想しているが、自傷の場合は、このくらいなら死なないと予測してやっている。
直接的損傷 ・・・間接的とはアルコール、過食・拒食、顆粒服薬など、行為と結果に時間差があり、コントロールしにくいもの。直接的とは、刃物で切る、殴る、ぶつけるなど、行為がコントロールしやすいもの。
●日本では、今、10代の1割にリストカットの経験がある。(経験者の6割は10回以上=常習性が高い)大人が気づけるのは、30分の1である(0.3%しか気づけない)。
(無記名の直式アンケート調査をする。対面では正直に言わない)
→ 意外に、男女差が無いことがわかる。男は誰にも相談しない、徹底して隠すという傾向。
10人に一人という数字。専門医や専門家(養護教諭、スクールカウンセラー)だけで対応できる数では無い。
思春期に始まる年齢(11〜13歳)から、誰でも発露する可能性があるものとして、学校や家庭、地域で対応できる必要がある。
●なぜリストカットするのか?
不快感情の軽減(激しい怒り、恐怖感、緊張感、離人症(現実感がない)など)→これがほとんどを占める。
自殺意図(初回は死のうと思ってやることもある。失敗して不快感情が)
周囲へのアピール(発見後、発見者の態度により2次的にアピール行為になっていく※)
などの理由がある。
発見者がとる3大態度「怒る」「泣く」「見て見ぬ振りをする」=>とても不自然な態度。
☆自傷行為は、アピールのためではない。一人でいるときに、誰にも言えずにやっている。(アピールのためにやっている、という学術的な根拠はなく、むしろ、そうでは無い学術的根拠はある)
→ 自分一人で抱えきれない孤独があり、その孤独を一人で抱えるための対処法として、リストカットする。
その背景に何があるか?という現実を捉えて、ソーシャルワークをしていくことが大事。リストカットをやめさせることが重要なのではない。
●からだの痛みが「鎮痛効果」をもたらす
自傷前後に血液検査をした実験がある。
自傷を繰り返す人は、リストカット後に、脳内麻薬が出ている。
→ 痛みから一時意識を離す、ということをやっている。
→ 切ると、安堵感や開放感を感じる。
●セルフスティグマ
自分自身で自分に呪いをかけているということがある。(虐待などの辛い体験を持っている人はセルフスティグマを強く持っている)
呪い・・・ダメな人間、幸せになってはいけない、楽になってはいけない。
「わたしは、人に助けを求めるに値しない存在(無価値である)」
「人はわたしを裏切るが、リスカは裏切らない(今までたくさんの裏切りにあってきている)」・・・自傷がエスカレートしていく一因。
自傷は、例えるなら、「骨折した時に、鎮痛剤を飲んでいるだけの状態」
本来は、骨折した骨の状態をみて、適切な処置をして、元の骨を治さないと根本治療にならない。
リストカットから、オーバードーズ(薬の過剰摂取)になり、自殺行為になっていくことが多い。
皮膚を切る時に、つらい出来事の記憶も、つらい感情の記憶も自分から切り離している。(「なかったこと」にしている。つらい現実的な状況はひどくなる可能性が高い)
「リストカットするやつは死なない」という言説があるが、正しくない。
→10代でリストカットしている人は、していない人に比べて、10年以内に自殺既遂で死ぬ確率が、400倍〜700倍になっている。
つらい状況を、誰にも助けを求めずに、一人でなんとかしようとしていることが問題である。つらい時に人に助けを求めない。助けを求めるスキルがない。
→ 「人に相談しない」ということも含めて、自傷行為である。
→ 頻度も程度もエスカレートする。自傷するハードルが下がる。
「生きるために」していた自傷が、死に近づいていく。
→ (援助者は)痛みの背景に、どんな出来事があるのか?を常に考える。
●発見した人ができること
初動が非常に大切!=>Respond medically, not emotionally.
初回の印象がもっとも大切(第一印象で好き嫌いを決める)。
相談に継続して来てもらえる、継続して会うことが一番大切なので、
謙虚に、教えてもらうという態度で接する。裁かないで「聴く」
(上から目線、大きな声、思い込み、決めつけなどは、一切不要)
「いい部分(不快が消える、誰にも頼らず一人でつらいことの対処ができる)もあるし、悪い部分(死に繋がる、依存的になる、周りのサポートが減る)もある」という両価性に共感する。
大げさに、深刻にしない。(そういうことやっちゃうのは誰でもあるよね、というライトな感じでいるのが良いのでは?という提案)
<<リストカットしている人をみて、やってしまうこと>> →NG!
①怒る、叱る
②涙ながらに同情する、嘆く
③見て見ぬ振りをする(何もしない。何をしていいかわからないを含め)
「自分を傷つけちゃダメ」は、絶対ダメ!(禁句)
やめられないので、言っても×。できないことを言われると次から来なくなる。
やめさせることよりも、モニタリングできることが大事。トリガーに気づけたら、評価していく。
「あなたが傷つくと、わたしも傷つくの」=>こんなメンタルならサポートできない!
リストカットしてしまう背景に思いを馳せて、冷静に対応することがおとなに求められる。
肯定的なメッセージをたくさんかけてあげることも大事。
●支援者に怒りをぶつけてきたら・・・
怒るのは、あなたが怖くないからです。(怒りをアサーティブに伝えられるようになることは一つのゴール。ただ、これは一般の人でもできてない人が多いですよね??と。)
「今の言い方傷ついたんだけど、言い直してもらえない? いくら何でもひどいと思うな」と言えるようになるとよい。
●嘘は自分を守る能力
自傷する子は、嘘つきなことが多い。(小さな嘘をたくさんつく)
嘘がつけるのは、健康である証拠。スルーしてあげる。
●親には内緒にして!
親に内緒にすることは、現実的には難しい。が、それをすぐに本人には伝えないこと。
→親の反応を恐れている。
「どんな反応をしそう?」と何を恐れているかを知ること。
子どもは親の何を恐れているか?
過剰な反応・・・叱責、禁止、親の自責
過小な反応・・・誰かのマネ、関心を惹こうとして親に、誤解されたくない。
●市販薬に注意
リストカットからオーバードーズに移行しやすい。
自傷患者のオーバードーズは、ほとんど市販薬乱用。
パブロンゴールド、エスエスブロン、ジキニン、イブA錠、ナロンエースには注意が必要!
(ちなみに、私は一時期、イブとナロンエースの依存症でした・・・鎮痛剤誘発性頭痛になった)
●「命を大切に」? 「自分を大事に」???
生命尊重教育は、きれいごとが大好きな人(学校や政治家を含め)たちに受けがいい。
生きづらい人たちにまったく共感のない状態。
本当に困っている人たちを排除している。
ライフスキルの問題を、道徳にすり替えている。
最大の「自分を大切にしないこと」は、援助を求めないこと、安心して人に依存できないこと。
松本先生のお話には、本当に、ライフスキルがたくさん詰まっていて、トークも面白く、あっという間の二時間でした。(ダンディでとても素敵な方でした!)
最後の質問で、「育児中の親が気をつけたいことは?」という質問が出たのですが、それに対する松本先生の答えが、とても素敵でした。
「その質問を僕にするのは、間違ってるけど・・・。僕は75%の親はダメな親だと思ってます。自分の子どもも、僕のことを尊敬したりはまったくしていないけど、唯一、僕がダメなこと、失敗談を書いた記事は喜んで読んでました。ダメなことや、かっこ悪い話をいっぱいしてあげたらいいんじゃ無いですかね? そういう話にこそ救われるんだと思います」
失敗談を発信しよう!
松本先生の話の中でも、「聴く」、「情報発信(声をあげる)」、「投票に行く」ということが出てきました。
大切なことは共通しているなと思います。わたし自身も改めて、知ることができてよかったです。
松本先生の本のオススメ↓
自傷・自殺する子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ)
- 作者: 松本俊彦
- 出版社/メーカー: 合同出版
- 発売日: 2014/03/25
- メディア: 単行本
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わたしの参加したものではありませんが、同じような内容の講演についての記事がありました。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/jishou-toshihikomatsumoto-1